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ネクタイ

タイが好きで結んでいる人。仕方なく結んでいる人。その差は歴然である。

 わたしの考えるよいネクタイとは、そのネクタイを締めることによって、スーツ、シャツ、靴、鞄、など全体の調和を図り、完成させてくれるネクタイ、そういうネクタイが好きである。

 マリネッラの紺無地はまさにそういうタイで、絞めるだけで全体の格が上がる。そのタイは見た目は地味で、ただの紺の布きれである。なのに、他のアイテムを引き寄せ合うように、一つにまとめてしまうのだ。ネクタイこそ黒幕であるのに、周りはそのことに気がつかない、自分だけが秘密を知っている、ちょっとした優越感だ。

 タカキューのシルバー無地もそういうところがある。ピエールカルダンは脇役に収まりきれずに、ちょっと顔を覗かせるが、出しゃばることはない。ダンヒル、ニッキーは出しゃばる。遊びたいとき、ネクタイを出しゃばらせたいときに締めている。

 もっともここで述べたのは、わたしの所有する数少ない例であり、ニッキーでも出しゃばらないタイはあるだろうし、マリネッラでもギラつくタイはあるだろう。ただ、こういうネクタイの分類の方法があるということを言いたかったのである。


絞めまくる

 人間年を重ねるにつれてネクタイも増えてくるものである。ゆえに、若い人はあまりネクタイを所有していない。これは残念なことである。もし、父親がネクタイを持っていたら遠慮なく借りるといい。人にはそれぞれ、合う柄、合う色、好きな柄、気分のいい色がある。多く試した方がいい。

 どんなネクタイを締めるべきか。総論に書いたが、あれは総論であり、もっと踏み込んでわたしの考えを披瀝すると、ネクタイは趣味であり、個性であり、表現である。だからこそ、星の数ほどのネクタイが売られている。

 あなたはどんなネクタイが似合うか。これはトライアンドエラーを繰り返す以外にない。お洒落を試みてわかったことは、料理やスポーツと同じで、やってみなくては分からないということだ。世界中の野球の上達本を読破したところで、練習しなければ上手くならないのと同じで、Vゾーン好例集をどれだけ暗記しても、そのVゾーンが自分に似合うかどうか、自分を表現出来るかどうかは、やってみなくては分からないのである。やってみるだけではなく、その格好が、蛍光灯の下では映えなくても、自然光の下では映えるとか、気分が落ち着くとか、気合が入るとか、いわゆる好みなるものも、それを着用していなければわからないことである。

 とても気に入って買ったネクタイなのに、締めてて全然しっくりこないし、気分も乗らない残念なネクタイもある。これは経験してみるしかない。

 Vゾーン好例集の通りの着こなしが、今ひとつしっくりこないのは、好例集とまったく同じアイテムを揃えられないということもさることながら、パーソナリティに合致していないというところが多いのではなかろうか。


古着のすすめ

 ネクタイ一本一万円、そんなとっかえひっかえ換えられるほど買えない。正論である。しかし、ネクタイにはスーツやシャツにはない特殊性がある。その特殊性とは古着屋でべらぼうに安く手に入るということだ。

 わたしは数万円のネクタイを何本数百円で買ったかわからない。先日もニッキーとフェアファクスをそれぞれ324円で購ってきた。二本合わせて648円である。ニッキーのほうは若干撚れていたが、フェアファクスは新品と見紛うほどだ。

 もちろん、シャツやスーツも古着屋で安く手に入るが、サイズが合わないものが多く、滅多に買えない。その点ネクタイは子供用を除けばフリーサイズである。値下がり率もスーツやシャツの比ではない。

 なぜ古着屋に出回るネクタイがこれほど安いか、わたしなりの解釈を申し上げる。

 ネクタイは今でも贈答品であることが多い。デパートのネクタイ売り場では、到底ネクタイなど締めることのないであろうご婦人が物色している。ご婦人方にネクタイを頂いた方も多いのではなかろうか。婦人でなくとも、同姓からもネクタイを頂く機会も多い。つまり、ネクタイはプレゼントとして買われることが多いのである。

 勘のいい諸君はもうお気づきだと思うが、古着屋のネクタイはプレゼントになり得ないがゆえに安いのだ。利用しない手はない。


上質なネクタイ

 上質なネクタイを古着屋で見つけたら、迷わず買うべきである。但し気をつけた方がいいのは、古着屋では百均のネクタイが数百円で売られていたりする。その意味からも、ブランドとその価格帯を覚えることは必要かも知れない。

 上質のネクタイはまず、シルク100%、閂(かんぬき)が立派なもの、たるみ糸があるものなどである。しかし、300円くらいならば気に入ったものを気にせずに買っていい。閂、たるみ糸については下の写真を参照されたし。

 上質なネクタイを一、二本、定価で買うのも悪くない。どういうものが良質であるか学習できる。

 中古がどうしても生理的に受け付けないという人は新品を買うしかない。中古にしろ新品にしろ、フェアファクス、クリケット、あたりを選べばまず間違いない。

 先日、ある色のソリッドタイが欲しくて、amazonでピエールタラモンを注文した。ポリエステル製であるが、悪くはない出来だった。もし、千円のネクタイを臆することなく堂々と絞められる豪傑ならこれもありだろう。


結び目の作り方

 ノットの結び方は二種類覚える。プレーンノットとウインザーノットである。この二つをマスターすれば、ダブルノットとセミウインザーも結べる。ノットはひたすらまねる。格好いいと思うノットと同じように結ぶ。形、大きさ、ディンプルの深さ、位置、納得いくまで結ぶ。

 当たり前のことであるが、鏡を見て結ぶことだ。わたしは調子に乗って鏡を見ずに結んで出かけたことがある。ある食事会のことであった。年中結んでいるから大丈夫だと高をくくったのだ。わたしは食事会の最中、得意の衒学をひけらかし、ダンディに気取り、格好を付けていたわけであるが、帰りの駅でトイレに寄って驚いた。結び目が巻き付けてあるところの上に飛び出している。実にちんぷんかんぷんな結び方で、おもわず笑っちゃう形であった。鏡がなければ、インカメラとかで確認してもいい。自分の格好は確認しなければ駄目だ。自分の想像と大きくかけ離れていることが多い。構造上人間の目は外を見るように出来ていて、他人をチェックするのは容易なのだが、自らをチェックするのは一手間いる。その一手間を惜しんではいけないということである。

 ネクタイの長さはどうするか。多くの教科書には大剣の先がベルトにかかる程度、と書かれている。だが、トラウザーズの股上の深さは様々である。腰骨のあたりまでしかない浅いもの。へそにかかるほど深いもの。股上の深さに合わせてネクタイの長さを調整するのだろうか。あり得ない。そもそも、ベルトにかかる程度というのは、ジレなしでジャケットのフロントを開けている場合の話ではなかろうか。


 ネクタイが思想であり表現であるならば、もっと自由でなければならない。ネクタイには個性がある。長さ、厚さ、太さ、柔らかさ、etc.


 ウィンザー公の有名な写真の一枚。玄関であろうか、足下には白い菊が鉢植えされている。紺のウィンドー・ペンのスーツにグレーのシャツ。フロントボタンを外してポケットに手を突っ込んでいるウィンザー公が映っている。この公のネクタイは短い。おそらく薄手のネクタイだ。トラウザーズも股上が深いものをはいているが、もし、ベルトにかかるくらいの長さで結となると、ノットのボリュームを出すことが出来ない。


 ノットのボリュームと長さ、どちらを優先するか。ノットのボリュームを優先する。なぜなら、フロントボタンを留めていればネクタイの短さは気にならない。むしろ、長い方が問題で、フロントカットの裾からべろーんと出ているネクタイ。あれはみっともない。


 ネクタイが長かったり、身長が低かったりすると、大剣よりも小剣が長くなることがある。あまりに長すぎる場合、わたしはトラウザーズの中に入れる。五センチくらい長いだけなら、そのままにしている。


 ポケットチーフにも共通することであるが、ネクタイやチーフは決めすぎないことが重要だ。どこか崩れている。ノットが歪んでいたり、小剣が長かったり、ディンプルがずれていたり。いかにも作り込みましたというのはダサイ。自然な表情が必要なのだ。なぜか。人体が自然のものであるからだと思う。人の顔はシンメトリーではないし、人の表情は変わる。そういった自然の産物に対し、ネクタイの表情もまた自然である方が、調和をもたらすと思う。逆に、マネキンに絞めるネクタイが曲がっていたりすると気になるのが、その証左ではなかろうか。

 右フェアファクスと左ポリ100%ネクタイ。フェアファクスの方をみて欲しい。タイの左右が開かないように留めてあるのオレンジ色の糸が閂。どちらの閂が立派か、一目瞭然である。

​ ネクタイを裏返し、大剣と小剣の合わせ目を開くと、細い糸が現れる。これが、たるみ糸である。

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