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ジェリー・ヤン少年が十一歳で渡米したとき、唯一知っていた英単語、それがshoeであった。

お洒落は足元からという台詞を聞いたことがあると思う。この台詞をわたしなりに解釈すると、どれだけスーツやタイをビシッと決めていても、みすぼらしい手入れの行き届いていない靴一つで台無しになる、ということである。だから、まずは注意を怠りがちな靴から注意せよ、そういう意味である。

落合先生もまずは靴から投資せよ、と仰っている。その理由は靴は不変だからである。太ろうが痩せようが、スーツに対する造詣が未熟であろうがなんだろうが、良質の靴であれば何年も履くことが出来る。間違いが少ないのが靴なのである。

では、どのような靴がいいか。わたしは黒の内羽ストレートチップを履いておけば問題はないと思う。できる限り上質なものだ。

スーツに合う靴の色は黒か茶である。ただ、茶はその明暗のみならず、赤みが強いものや、いわゆるパティーヌという塗装のムラのあるなしなど、種類は豊富である。明るすぎる茶、赤すぎる茶、塗りムラの激しいものは初心者が手を出さない方がいい。西洋人は式典でもない限りまず黒靴は履かないという。落合氏や赤峰氏なども茶を推奨するが、わたしを含め多くの日本人は黒が合うと思う。理由は単純で頭が黒いからである。西洋人は頭が茶色いので逆に黒が合わないのではないだろうか。コートなども同じで、日本人や中国人には黒が似合う。

素材は革一択である。牛革だ。カーフやキップである。スウェードやコードバンもいいが、まずは牛革である。ガラスレザーも悪くはないが、まずはスムースレザーである。

デザインはストレートチップかメダリオンが控えめなキャップトゥ。いずれも内羽根。悩みどころはソールである。レザーソールは最もドレッシーだ。しかし、滑るし、黴びるし、靴底は減るし、実用的ではない。運転手付きの自動車がないならばラバーソールにした方が無難である。二足目以降はもちろんその限りではない。

日本は中途半端な国で、着物を着て暮らそうとすると袖をドアノブや手すりに引っかけて破いてしまう。靴紐を硬く締めて出かけると、靴を脱いで座敷に上がらなければならなかったりする。本来靴紐は固く結ぶべきである。しかし、一々紐を解いていては流れが悪い。そこで、多くの人は、紐を緩めにして、解かなくても脱げるようにしている。わたしはそれでいいと思う。へんてこなスリッポンを履くくらいなら、紐靴をスリッポン的にした方がまだマシかも知れない。

手入れが面倒くさい、という人がいるが、靴磨きは娯楽である。曇ってきた靴をぴかぴかにする、実に気分がいい。時間もそれほど掛かるものではない。一足10分もあれば事足りる。一時間あれば六足磨くことが出来る。

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